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向日葵(中)(連載)

二人きりだった。
暑い。寝不足のせいか目眩がする。
前を歩く矢追のうなじに汗で濡れた髪が張り付いている。
いくら歩いても出口にたどりつかない。

言い出しっぺは誰だったか。堂仁は高校の同級生数人でキャンプに出かけた。テントで一泊し帰る途中、偶然矢追たちと鉢合わせた。
矢追たちは川でバーベキューをした帰りで、花迷路に挑戦しに行く途中だった。
彼らに同行することになったとき堂仁は心中うんざりしていた。
今まで矢追とろくに話したこともなかったが、どこか癇に触る人間だという印象を持っていたからだった。
これをウマが合わないと言うのだろうと堂仁は思っている。愛想のよさが気に入らない。そばにいると、へらへら笑うな、と口にしてしまいそうになるのだった。
しかし気付いているのかいないのか、矢追はいつも同じ笑顔で堂仁に接してくる。今日も暑さを気にした様子もなく笑っている。

向日葵畑の迷路だった。見上げるほどの向日葵がびっしり咲き誇り、人がやっとすれちがうことができる程度の細い道がある。道はうねうねと曲がりくねり、先を見通すことはできない。
「最速記録は31分29秒だって!更新したら西瓜がもらえるって!」
来野は至極楽しげだ。友人たちは一斉に向日葵の海に飛び込んでいった。

「暑いねえ」
「……ああ」
「出れないねえ」
「……」
後から一緒に入った友人とも離れ離れになり、いつの間にか矢追と二人きりになっていた。地面から熱気がたちのぼり、汗が流れ落ちて行く。不快指数は極まっていた。向日葵の花を見上げて楽しむ気力もない。ただの緑の壁に囲まれた迷路でしかなくなっていた。

「ねえ、出られなくなったらどうする?」
「は?」
口をきくのも面倒だ。こいつは何を言っているのだろう。
「もう一時間経ってるんだよねえ。ここから一生出られない気がしてくる」
「歩くの遅いんじゃないか」
「そうかな」

視界が揺れる。狭まる。
「堂仁君!?」
思わず膝をついた。激しい頭痛。昨夜のアルコールが残っているのかも知れない。
戻って来た矢追の影に覆われる。
「うるせえな……ちょっと目眩がしただけだって」
矢追は携帯電話を取り出すと舌打ちをした。
「嘘だろ……圏外」
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