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導火(5)(連載)

巨大なプリンを追いかけながら自分の荒れた呼吸を聞いている。
この近辺の施設は地下に潜ったのか、整然とした広大な緑地が広がっている。等間隔に並んだ街灯が点りはじめ、ぽつぽつといるロボットを照らしている。
矢追は何か懐かしいような気持ちがしたが、その正体はわからなかった。
「なんか、ロボット、増えてる、よね?」
備府は喉をぜいぜいと鳴らして答えない。
前方にロボットによく似た建物が見えている。

近付くに連れて奇妙な景色が明らかになった。巨大なプリンが列を成して施設に向かっている。
追っていたロボットから少しでも目を離せば見失いそうなほどロボットがひしめいていた。ただ一つ異常なスピード以外に見分ける手立てはない。一分の狂いもなく並ぶ仲間の横を擦り抜け、本を腹に呑んだそれは突き進んでいく。
「も、無理……」
一言漏らして備府はへたりこんだ。肩を忙しなく揺らして空気を吸い込む。
「先行って、くれ」
矢追は逡巡し、その後うなずいた。
「じゃあ、電話かけながらゆっくり来て」
「おう、」
矢追は向き直り、駆け出そうとして視界の端に違和感を抱きたたらを踏んだ。もう一度振り返る。
一分の狂いもなかったはずの列は乱れていた。通り過ぎてきた後ろのロボット達がフラフラと列を離れ、道いっぱいを埋め尽くしながらこちらに向かってくる。こちらにというより施設に、というのが正しいかもしれない。
備府は矢追の視線を追って振り返った。
「うわ何あれキモい」
一息に言うと咳き込んだ。矢追も同感だった。
じわじわと迫って来る様は機械より虫に似ている。

ぱあん、と紙袋を叩きつぶしたような高い音が響き、矢追は赤いものが降り注ぐのを見た。
しばらく何が起きたのか理解出来なかった。
視界が真っ赤に染め上げられ、備府を見失う。
再び破裂音。
赤いものはカサカサと降り積もった。
備府の驚いた顔をスローモーションで撫でていく、紅葉。

目指していた施設の上部から枯れ葉が吹き出している。金や茶はまばらで、どこに生えているのか燃えるような紅葉ばかりが吹き上がっている。出来の悪い火山の張りぼてのようだった。
何かの連鎖のように断続的に噴火は起こった。ぱあん。ぱあん。
後ろでも。後ろ?
遠くでロボットが破裂している。真っ赤な何かをまき散らしている。その隣りのロボットも破裂する。そのまた隣りのロボットも。
あっという間に辺りは破壊に満ちる。
鳳仙花の種の連鎖を矢追は思い出す。
もしかしたら自分たちも爆発するのではないか。
現実感がない。備府と二人惚けている。
とっくに目標は見失っていた。
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