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水族館(3)(連載)

矢追は電車に揺られていた。ガラガラに空いた車内に窓の外からの色濃い影が踊っている。傍らには備府がいる。
散々ごねたあと、備府は渋々同行を了承した。話から推測するにどうやら水槽に近付きたくないらしい。それとなく聞き出そうとしたが理由はわからなかった。
水族館までは大学から2時間ほどかかる。先程から二人は特に何を話すでもなく並んで晩夏の風景を見ていた。
備府の瞼が次第に降り、頭が揺れ出す。
「眠いの?」
備府は体勢を立て直すと口の辺りを拭った。
「いや全然」
「僕起きてるから構わないよ」
「眠くねえし」
「そう?」
また夜更かししたのだろうか。目の下に隈がある。
「あれだし、首が据わってないだけだし」
「赤ん坊じゃないんだから」
程なくして備府の体から力が抜けて行く。膝が開き、矢追の膝に触れる。そのままにしていると体温が染み込んでくる。
肩に重みがかかる。硬めの髪が首筋に触れる。
息遣いが聞こえる。所在無さ気に投げ出された手をとった。
自分の手のひらと合わせてみる。大きさはほぼ同じ。小指は備府のほうが長い。ゲームだこがある。爪は短くて平たい。微かに汗ばんでいる。
毎日会っていても案外知らないものだ、と矢追は思う。
備府が身動ぎをした。矢追が手を離す前に目覚め、合わせられた二人の手に気付いた。
「……なんだよ」
備府は矢追の手を指を絡めて握り、渾身の力を込める。
「痛い痛い!」
「ざまあ」
「ひどいなあ」
「ふふん」
するりと手は離れた。何故今自分は名残惜しく思ったのだろう。
頭は肩に置かれたままだった。
「……なあ」
「ん?」
「あとどんくらい?」
少しかすれた声が矢追の耳に這い込む。
「……あと40分はかかるよ」
「…おう」
それきり静かだった。

備府は寝不足だった。悩みの種は堂仁だ。
「一緒に本をつくろう」と誘われただけだ。ただ相手が問題だった。
備府は部誌の一件以来堂仁には極力接触しないように過ごしていた。心当たりがないにしろ嫌われているのは明らかだと思っていた。
考えておく、と言ったのは時間稼ぎで、備府は衝撃から覚めた瞬間に断り方をシミュレーションし始めた。
何かの罠に決まっている。危うく詳細をたずねるところだった。
笑い者になるのはごめんだ。
もうなっているかも知れない、と想像すると腹具合が悪くなった。
矢追たち本当には自分のことを友人と思ってくれているのだろうか。
自分は思い切って輪の中に入ったつもりだったが、邪魔者だと思われていやしないか。
急に不安の波に襲われた備府はパソコンを立ち上げた。
明日は矢追と遠出しなくてはならない。こんなことは忘れてとっとと寝るに限る。

いた!!!!!!

家を出たらジョーさん発見した!!!!!!!
お向かいの山口さんちのツトムくん(ミックス♂3才)といちゃいちゃしてた!!!!!!



不良か
逢引かこら
男の小屋に無断外泊なんていつからそんなふしだらな子になったんだ

もともとツトムくんとは反りが合わんかったけどこれで決定的だな
うちの娘をたぶらかしやがって
なんなの?会えない時間が愛を育てるの?
君達初対面じゃね?
恋人の親にうなるとかまじチャレンジャーだなツトムさんよぉ
ジョーさんはうちの子だから!
あとジョーさんは6才だから!
お前みたいな坊や相手にしないから!
めっちゃ鼻と鼻スリスリしてたけど!


とりあえずアグレッシブなツトムくんからジョーさん取り返して水槽に戻して出てきました
車にはねられたりしなくて本当によかった
電車内でこれ書いてます

ご心配おかけしました
取り急ぎご報告まで
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