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手袋(前)

「おい」
「……」
「おいってば」
「……」
「矢追?」
「…へっ?ごめん、聞いてなかった」
らしくない、と備府は思った。
それと同時にずいぶん矢追をあてにしている自分を苦々しく思う。
二人は雲英館の門の前に立っていた。

総合案内所へ向かう。広大な敷地には様々な施設が点在しているが、門を入ってすぐのここでは入場券を一括して買うことができる。
近年建てたらしい外観の素っ気ない建物に入る。
さして大きくないその建物の控え室が指定された場所だった。
しばらくして岡が足早にやってきた。
五六脚積み上げたパイプ椅子の上に悠然と腰掛ける。
膝の上で組んだ手は白い手袋に包まれていた。

面接はあってないようなものだった。
顔を合わせるなり岡は仕事内容の説明を始めた。
「そういうわけで基本はデータ入力です。司書さんの手が回らない場合には通常業務を手伝ってもらうこともあります。あとお使い頼んだりもあるでしょうね。そこらへんは館長に従って臨機応変にお願いします。質問ありますか?」
岡はにこやかに締めくくった。

次からは直接図書館に来てくれと言われ、二人は早々に総合案内所を後にする。
「なんか変だね」
「確かに変な人だな。あの椅子に突っ込みたくて仕方なかったんだが」
「え……備府って椅子フェチだったの?なんかこう性的に高ぶったりするの?」
「突っ込みたいってそっちじゃねえよ!」
「安心して、備府がどんな趣味を持っていてもずっと友達だよ!そうだ!なんだったら椅子のコスプレするから!」
「『そうだ!』じゃねえよ!その妙に誠実な目やめろ!椅子のコスチュームってどんなんだよ!てか椅子のコスプレしたとしてそれがなんなんだよ!」
「あーん備府の突っ込みが気持ちいい」
「今度から突っ込みは闘牛に頼むことにした」

「で、何だって?」
「ん?」
「お前が言ったんじゃねえか、変だって」
「…なんで面接場所があそこなんだろうって。仕事内容の説明だって現場でやったほうが手っ取り早いのに」
「まあ、二度手間だよな」
「あとさ、岡さん手袋してたでしょう?」
「ああ」
「あれ本を扱う時にはめるやつだよね」
「そうかもな」
「気になっていろいろ考えたんだけど、握手してこなかったからさ、ケガを隠してたんじゃないかなと思って。だから椅子を積み上げたままで座ったんだよ」
「…まあ可能性がないとは言えないな」
「それと靴が泥まみれだった」
「あれは岡さん自身が苗木植えるの手伝ってたって……」
「ケガした手で?」
「さっきから何が言いたいんだよお前は」
「……図書館行ってみようよ。下見も悪くない」

ポーの一族

読むたびに泣きます
ただ泣くところは毎回違います
大抵「ひとりではさびしすぎる」で泣き始めるパターンですが、それ以降はエドガーの気持ちになったりアランの気持ちになったりポーの一族に魅せられた人の気持ちになったりします
登場人物に感情移入しない場合もやっぱり泣きます
始まりから終わりまで満ちている哀しみに耐えられないんですよね
透明過ぎて

まだ語るには早かったみたいですね
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