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部誌(前)(どうじんとらいのとびっぷ)

「今回なかなかの出来だな!」
「ああ」
喜色満面といった様子の来野に堂仁は素っ気なく応える。
「『初恋』にはそれぞれ何かしら思い入れがあるんだろう。気合いが違うな」
部室には届いたばかりの部誌がうずたかく積んである。山を隔てて二人は早速目を通していた。お互いの姿は見えない。
「あれー堂仁珍しいな、百合かー」
「まあな」
「もったいないから帰ってから読むわ」
「……そりゃどうも」
堂仁は座り直した。
「あーだめだ待ち切れないからやっぱり読む」
「そういうの報告しなくていいから」
「はーい」
堂仁は煙草を吸うために部室を出た。一本吸い切る前にひねりつぶして戻る。部誌の山の向こうに来野の頭の先がある。
「すげーな」
こちらを確かめもせずに来野は口火を切った。
「あ?」
「線に怨念とかこもってないかこれ。こえーよ」
「……そうかよ」
「『思い入れがある』のは堂仁も同じなわけだな」
堂仁は一瞬部屋を出て行きたい衝動に駆られた。
「なに?訊かれたくない系?」
「訊くのは勝手だ。ただし応えるかどうかも勝手」
「けっ。かっこつけめ」
控え目なノックの後、カチャリとドアが開く。堂仁と目が合った備府は身を竦ませた。
「す、すいません、ああの来」
「おー入れよ備府。出来たてほやほやの部誌ですぜ」
紙山から顔をのぞかせて手招きする来野に気付き、備府は露骨に安堵した。
「お、お邪魔します…」
「前から訊きたかったんだけど」
いい機会だ、と堂仁は少し屈みこむと、俯いた備府を下からのぞき込むようにした。
「俺何かしたか?」
備府は勢いよく頭を横に振る。
「……まあ本人目の前にしてはなかなか言えないか」
「いや、ちが、違います、人見知りなだけっす」
「そうか、よかったわ」
「はい…」
愛想笑いのようなものを浮かべる備府を前にして、堂仁の口からこの場にそぐわない冷ややかな声が滑り出た。
「うっかり内心が表に出てるかと思った」
「……え?」
「おい、堂仁!?」
石になっている備府の横をすり抜け、堂仁は今度こそ部室を後にした。
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