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部誌(後)

部室にいるのは備府と来野、穂江、その他数人の部員だけになっていた。片付けも終わり、備府は説明と謝罪のために部長を待っている。
「備府!」
壊れよとばかりにドアが開き、息を弾ませて矢追が駆け込んで来た。真っ直ぐに備府に手を伸ばし、肩を引き寄せる。
「怪我は?頭打った?」
髪の毛の中に指を差し入れ、頭皮をまさぐられる。慣れない感触に備府は顔をしかめた。
「すまん、大丈夫だ…う、腕でかばったし」
矢追の手は後頭部をなで下ろす。
「こぶができてる……」
「大したことねえって」
備府はさりげなく身を引こうとするが、矢追は許さない。
「頭は後から影響が出ることもあるから病院行かなきゃ駄目だ。備府、僕を見て。ぼやけたりしてない?」
備府は初めて見る矢追の緊迫した表情に耐えきれず目を逸らした。
「大丈夫だから……顔ちけーよ」
矢追の胸に手を当て、押し返そうとする。早鐘のような鼓動が手のひらに伝わった。
「そうか、良かった……脅かさないでよもう……寿命縮んだ」
矢追は表情を和らげるとようやく備府を放した。
「何やってんだよ……」
振り返ると、入口に堂仁が憮然とした面持ちで立っている。
「あら堂仁君、帰ったかと思ってたわ」
「そんなことはどうでもいい!今のはなんだよ!」
「何って……何が?」
矢追が疑問を口にすると堂仁は頭をかきむしった。
「―――っ、何でもねえよ…いいからお前は離れろ!」
ズカズカと歩み寄り、矢追の二の腕を掴んで引く。
「どうしたの?堂仁」
「どうもしねえ」
「そうだ備府、病院行かないと」
「病院?」
「必要ねえだろ。たんこぶと打ち身だけだし。部長に謝らないと」
「謝る?」
「先に病院行った方が良いって」
「おい説明しろよ」
「ごめん堂仁ちょっと待ってて」
「!」

「……収拾が付かなくなってきたわね」
「なぜか一瞬いらっとしたんですけどなんでっすかね」
「なぜかしらね。私は笑いを必死に堪えてるのだけれど」
「満面に出てますよ」
「あら大変」

部誌は幸運が重なってさほど傷ついていなかった。売り物にならない60冊ほどを買い取ることで話はついた。
来野と備府は一時間の厳重注意を受け無罪放免となった。

「そういえばなんで備府は部誌に突っ込んだわけ?転んだの?」
病院へ向かいながら矢追はふと聞いた。
「……転んだ」
「嘘吐いてるね?」
「嘘じゃねえし」
「じゃあ目を合わせて言ってみて」
「やだし」
「えー」

「堂仁どんまい」
「…うっせー」
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