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備府視点

やっと書けました備府視点!
矢追が主人公なことには変わりありませんが、矢追から見た備府も、備府から見た矢追も書いていきたいと思っています

もちろん他のキャラクターもね!
キャラクター結構増えそうです

買い物(後)は明日上げます

買い物(中)(やおいとびっぷ)

買い物は苛烈さを増していった。かばんを選び終えた時点で備府は疲労を覚えた。彼はファッションにさしてこだわりはない。よって大量の品物を値札をにらみながら選り分ける情熱など湧いてくるはずもなかった。
靴を選ぶところまではそれでも自分の意見を伝えていたのだが、六軒目の服屋の試着室に入る頃にはただされるがままになっていた。
「備府、開けるよ」
ジーンズに脚を通すと矢追がカーテンを引いた。
「ぴったりだね」
ウエストに指を入れて引っ張り確認すると、足元にしゃがんで裾を折った。
「裾上げ5センチかな」
じゃあ脱いでね、と矢追はカーテンを閉める。自分が小さな子供になったかのような錯覚を起こしながら備府は急いで着替えた。
何を言ったわけでもなかったが、矢追は備府が疲れているのを読み取ったようだった。備府にはよくわからない基準で品物を選び、試着させてさらに選ぶ、といったことを嬉々として延々繰り返している。放っておいたら会計まで済ませてくれそうな勢いだ。
「よし!僕はこれがいいと思うんだけど備府はどう?」
目の前に広げられた数枚の衣類。備府はうなずいた。良いも悪いもない。
「こんなもんかな。安いのいっぱいあってラッキーだったね」
店を後にすると矢追は言った。
「ありがとな」
矢追が持っている買い物袋に手を伸ばすが、さりげなく躱されてしまう。
「どういたしまして。僕も楽しかったよ、備府と買い物できて」
「……お前なんも買ってねえじゃん」
「ん?備府が僕好みに変身!っていう楽しみがあったんです」
「なんだよそれ」
吹き出すと、矢追に穏やかな目を向けられる。
時たま矢追はそんな目をする。備府が矢追に戸惑いを感じる原因のひとつだった。
どんな反応をすればいいのかわからない。
「腹減った」
疲れた、と本音を言うわけにもいかずぼんやり呟くと、備府は顎に手を当ててしばし考え込んだ。
「備府うちに来る?ジーンズの裾上げ時間かかるし、ゆっくりご飯食べて帰りに取りに寄ったらどうだろう。ああでも、もうお腹空いてるんならやっぱり近くで食べた方がいいかな」
荷物を抱えて昼時の飲食店に入ることを考えると頭痛がするようだった。
「お前んちがいい」
「では、心ばかりのおもてなしをいたしましょう」
まずは愛車を回してきます、と矢追は言った。

「愛車ってこれかよ!」
「自転車だって立派な車ですぅ」
ママチャリに跨がった矢追は手を伸ばした。
「荷物貸して」
前かごに袋を詰め込み、入らなかった分をハンドルに掛ける。
「ほら、行くよ」
後ろの荷台を叩いて矢追は笑った。
恐る恐る後ろに跨がると矢追がペダルを踏み込む。ぐらりと重心がずれ、備府は慌てて矢追の腰の辺りを掴んだ。
「ちょ、備府!くすぐったいよ」
「あ、わりぃ」
荷台を掴むがどうも安定しない。
「腕を回せばいいんだよ、おっぱい押し付けるように」
「ついてねえよそんなもん」
言われるがままに腰に抱き付くと自転車はスムーズに進み始めた。矢追の笑い声が体に響く。
気恥ずかしくなり顔を俯けた。
「お前んちまでどれくらいかかんの」
「このペースだと二十分ちょいかなあ」
「じゃあ五分交代な」
「え?何?聞こえない」
「おい!」
「いいから信号の数でも数えてなさい。疲れたでしょ」
「お前俺のこと子供扱いしてねえか」
「まさか。ねえ、何か食べたいものある?」
「カップラーメン」
「ラーメンね、了解」
「カップラーメン!」
「うち春雨ヌードルしかないよ」
「OLかお前は」
人の体温はこんなにも心安らぐ物だったろうか。矢追の肩甲骨の間に額をつけ、備府は待ち合わせ場所で見た背中を思い出した。
墜ちるかと思った、といったら矢追は笑うだろうか。笑い飛ばして欲しい。
自分がつけたシャツの皺を眺めながら備府は思った。
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