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まなざし(オカルトとびっぷとやおいとどうじん)

今日最後の講義が終わった。堂仁と矢追は人の流れに乗ってサークル棟へ向かっている。
「あれ?備府発見」
広場の向こう側で、備府が見慣れない相手と立ち話している。
「お前眼鏡要らないんじゃねえの」
堂仁の言葉に棘が含まれていることはわかるが、矢追には心当たりがない。
「なんで?なかったら備府見つけられないよ」
見上げると、堂仁は自分の耳たぶを引っ張りながら溜め息をついたところだった。
「……あのさ、堂仁って備府となんかあったりする?」
ふと思い付いて口にする。堂仁はちらりと矢追を見た。
「…いや、これからだな」
これから問題が起きそうなほど反りが合わないという意味だろうか。
「…僕ちょっと備府のとこいってくる。堂仁先行ってていいよ」
「……ああ、わかった」
堂仁に最近違和感を覚えるが、その正体がわからない。苛立っているような目をされると、こちらまで不安になった。
それを振り切るように矢追は備府へと駆け寄る。
備府の話相手はちょっと見ないような美形だ。
(目立つ人だ…学部どこだろう、院生かな)
「備府」
話の切れ目を待って備府の肘を叩くと、矢追を視認した備府がほっとしたような顔をする。
(快感になってきたかも……)
備府が心を開いてくれるのが嬉しくて仕方ないのだった。
「すごい!君もだ」
たおやかな声が耳に流し込まれた気がして矢追はのけぞった。いつのまにか距離を詰めていた美形が、矢追にためらいなく視線を這わせてくる。
「いいバイトがあるんだけどどうですか?」
「バイト、ですか」
「そう。あなた達にぴったりだと思うんです」
「備府、僕に彼を紹介してくれない?」
備府は黙って首を横に振った。
「構いませんよ、自己紹介しますから」
にっこり笑うと白百合の花が咲いたようだ。矢追は思わず見とれた。
「岡といいます。彼とは十分前に運命の出会いを果たしたところです」
(つまり他人か)
「はあ」
「今知人がアルバイトを募集してるんです」
(備府にあやしい勧誘にはもっと注意するように言わないと)
「はあ」
「雲英館って知ってますか?」
(ん?)
「ええ」
「あそこに私立図書館があるでしょう、当主がやっとOPAC使う気になったらしくて」
「そうなんですか」
「この学校の図書館ともリンクさせようっていう話があるから、もうすぐ学校からもバイト募集かかるんじゃないでしょうか」
「どうして岡さんはご存じなんですか?」
「ああ、僕はもう雇われているんですよ。当主と知り合いでして……人手が足りそうにないのでかき集めてくるように言われてたんです。そしたらぴったりの方を見掛けて、つい声を掛けてしまいました」
雲英館は華族であった雲英一族本家であり、その長年かけて集めた貴重なコレクションを公開している図書館、資料館、美術館などの総称である。
「『ぴったり』って……仕事内容は普通の事務じゃないんですか?」
「うーん、ある種の才能が必要なんですよ」
うさんくさい、と思いながらも矢追は興味をそそられていた。
「じゃあ学校から紹介があったら考えてみます」
「そうですか…僕の名前出せば履歴書も要りませんから、ぜひ連絡くださいね」
岡はするりと矢追の右手を握ると、人波に紛れていった。
矢追は備府をふりかえった。
「備府駄目じゃない、知らない人には気をつけなきゃ」
「うるせーな…お前はおかんかよ」
「へえ備府お母さんのことおかんって呼んでるの?かわいー」
「うわうっざこいつうっざ」
「あの人いなくなったら急に元気だねー」
「……わかっててそういうこというんじゃねえよ、嫌がらせか?」
「僕なりの愛情表情だよ!大丈夫、人見知りな備府もとってもかわいいから!」
「あーあー聞こえなーい!不思議なことに矢追の声のみが全然聞こえない!」
「なんか目立つ人だったねえ。…バイト募集問い合わせてみようかな」
「お…俺も」
「何?そんなに一緒に居たいの?しょうがないなあ」
「あれれ?たった今興味が根こそぎ失せたわ」
「んふ」
「その笑い方やめろって言ってんだろ!」
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