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点火前(2)(連載)

恋愛は学ぶ物なのだ、と矢追は実感していた。生まれてから着々と人間は「恋愛」のサンプルを刷り込まれる。
「この気持ちは一体なんだ」と戸惑うことはかえって難しい。
誰かの笑顔が頭から離れなくなり、食事が喉を通らなくなり、ドアに指を挟み、眠れなくなったなら多くの現代人は恋に落ちたと判断するだろう。
「ああ、今まで小説やドラマや映画やアニメで見たとおりだ。これが恋か」
それは奇妙な逆転ではないだろうか。
来野のつむじを見つめながら備府のつむじを思い出そうとしている。
「ねえ来野」
「なに」
かぶりつくようにして矢追のノートを写している来野のつむじに向かって言葉を紡ぐ。
「部誌読んだんだけどさ、あれってエッセイだよね」
「おう」
「朝顔の話さ、」
「あれ評判よかった。備府も褒めてくれた」
心臓が跳ね上がる。一気に血が上ってくるのがわかった。
「……備府、他になんか言ってた?」
声音から何かを感じ取ったのか来野は顔を上げた。
「特に。朝顔の色水の話ならしたよ」
「……そう」
来野はしげしげと矢追を見つめた。
「疲れてんの?」
「ちょっとね」
「そっか」
これでも心配してくれているのだろう。何か笑い出したいような気分がした。
「堂仁は?」
「バイト終わったら迎えに来てくれるって」
「あの空中分解しそうな車で?」
「ルーシーって呼ばないと怒られるよ」
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