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炒飯(終)(連載)

慣れたら駄目だろうか、と考えながら備府は自分の腕の置き所が分からないでいる。
ねこっ毛が首筋に触れてくすぐったい。
矢追は至近距離から備府をじっと見た。視線を避けて目を伏せる。
「石油王だったらよかったのに」
矢追が離れて行く。
備府は矢追を見たが、矢追が横を向いたので目は合わなかった。
「なんだそれ」
「僕が石油王だったらなあって」
「唐突すぎるだろ」
「うん」
矢追は自分の爪を見た。
「備府は石油王だったらどうする?」
「ひきこもって好きなことだけする」
「即答だね」
「まあな」
どこかぼんやりした矢追に居心地の悪さを覚え、備府はもぞもぞと座り直した。
「そしたらもう僕とは会ってくれない?」
冗談めかした矢追の言葉に首を傾げる。
「なんでだよ」
「よかったー、僕と会うことも『好きなこと』に含まれてるんだ?」
こちらを見ずににやにやと笑う矢追に備府は顔を引きつらせた。
「自意識過剰キメェ」
「ふふ」
「ふふじゃねえから」
「うん」

備府が帰り、一人になった部屋で矢追は立ち尽くしている。
自分がどれだけ危うい場所にいるのか、ようやく気付いたのだった。
いつからだろう、と自問自答する。いつから備府に触れたいと思っていたのだろう。
少し強張った痩せぎすで硬い体を、自分と同じシャンプーの香りのする髪を、所在無げに膝の上で握られた拳を思い出す。
抱き締めて、その後一体何をしようとした?
「僕が石油王だったら……」
備府にははぐらかした答えを呟きかけて飲み込んだ。
認めてしまえば全てが変わってしまう。
読みさしだった部誌の最新号を開く。どの文章も眼球を滑るばかりで、現実逃避の役に立ってはくれない。
朝顔という単語が目の端に引っ掛かる。
『それをはっきりと自覚したのは小学校に入ってしばらくしたころだった。朝顔の種を蒔いた植木鉢を皆が机の上に置き、前に立った先生がこう言った。皆、朝顔さんが何か言っているのが聞こえるかな?』
『どんなに頑張っても朝顔さんの声が聞こえることはなかった。全幅の信頼を寄せていた優しい女教師の目には、私に押された可愛げのない子供という烙印がはっきりと映っていた。』
タイトルは『私とライトノベルと部屋と大五郎』
作者は、
「来野」
現実とは一体何なのか。矢追は部誌を放り出すとうずくまった。
備府に新刊はとうに渡してある。まだ読んでいないのだろう。読んでいたのなら気付かないはずはない。来野が備府の、いや、そうと決まったわけではない、しかしこの符丁は。
これでもう取り返しはつかない。
備府に部誌を読ませたくない。
いや、つまり、来野に備府を……。
とうとうはっきりしてしまった。
「困ったなあ」
もう触れられない。
「困ったよ、備府」
備府の気配はどこにも残っていなかった。

買った覚えのない本

というのが本棚に定期的に出現します
まあ私は自分の記憶力を全く信用していないのでそれ自体は構わないのですが
見つかったのが
「バジル氏の優雅な生活」文庫版3巻と4巻……

1巻と2巻はどうした!買ってないのか?それともこの家のどこかに隠れてるのか?はたまた人に貸しているのか?
読みたくなってきたよーほら読みたくなってきた
3巻をチラッと見たら未読っぽかったよー
初めて読む本なら途中からなんて暴挙には出れないぞこりゃ
罠だな
完全に罠だこれ
これはニアが僕をおとしめるために仕組んだ罠だ!(うろ覚え)

何をしてても頭の隅から離れない……まさか、これって恋?
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