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炒飯(5)(連載)

炒飯は備府の口に合った。恐る恐る味噌汁に口を付け、悪くない、と感心してみせる。
食事を終えてどこかへ行こうという話にもならない。
昼のニュースを並んで見ている。
矢追の視線に気付いた備府は苦笑する。
「なんだよ」
矢追の目が驚いたように大きくなった。
「いや、なんでもないよ」
「なんでもないならこっちみんな」
「うん」
矢追は膝を抱えた。
調子が狂うな、と備府は頬を掻いた。
ニュースは北区で昏睡病の患者が発見されたことを大々的に報じている。
「昏睡病」というのは便宜上付けられた名称で、原因不明の昏睡を総称したものであった。
脈拍の減少、体温の低下、眼震などが特徴で、低体温症との相似点があるが、患者に接触した人間に発症例が多いこともありウイルスの存在が疑われている。
発症した人間は非常に高い確率で眠り続ける。
今までに確認された例は二百人と非常に少ない。研究はなかなか成果を上げることができず、百人以上が眠ったままだった。
「本当にウイルスなのかな」
「どうだろうな」
「怖いね」
こいつは案外気分屋なのか、と備府は矢追を横目で見た。
伏せた目は陰っている。
「苦しくは無さそうだけどな」
寝てるだけなんだろ?
備府が言うと、矢追は体をこちらに向けた。
「備府、」
そこまで口にして、途方にくれたように黙り込む。
「なんなんだよさっきから」
肘を掴まれた。矢追は逡巡している。
「お前最近ベタベタし過ぎだ」
かわいいと言うなと言ったからだろうか。
「うん、そうだね、ごめん」
言いつつ矢追は備府を引き寄せた。
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