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点火前(1)(連載)

今までこつこつと積み上げて来た。信頼や友愛を築いてきた。それと同時に秘密も増えた。彼に見えないように後ろに積み上げた想いは退路を断ち、崩れかけて背中にのしかかっている。
堂仁は半ば本気で、矢追を一番理解しているのは自分だと思っている。あの夏の日からずっと見てきたのだ。変化に気付いたのは当然の帰結だった。
皮肉にもその変化は堂仁に心当たりのあるものだ。
「お前最近変じゃね」
傍らの矢追と備府のやり取りを耳だけで感知する。
「そうかな」
備府への身体接触が目に見えて減った。
食欲の減退、注意力の散漫、情緒の不安定。絵に描いたような症状だった。
過去の自分を見ているようだ。むしろ今まで自覚していなかったのか、と呆れる。
矢追も自分と同じ苦しみを味わえばいい。
逃げたくなくなるほど苦しめばいい。
「堂仁、今日泊まりに行ってもいい?」
矢追が上滑りする朗らかさで堂仁に顔を寄せた。途端に備府の顔に影が差す。
わかりやすいやつらだ、と堂仁は鼻を鳴らした。
「えっなにそれ」
「来たいなら来い」
放り出すように言うと、矢追は笑った。
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