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導火(7)(連載)

炎は瞳孔を灼く。反射的に目を閉じると熱風が吹き付けた。圧倒的な風圧に二人は手を繋いだままロボットから転げ落ちる。
「ひっ」
「うわっ」
ロボットの隙間から這い出し見ると、そこには鳥がいた。いや、鳥のように見える炎かも知れなかった。炎は翼を上げ下げすると、枯れ葉を灰に変えながら飛び立った。空を覆うまでに大きく見えるその羽ばたきの度、拳ほどもある火の粉が降る。
あちこちで火の手が上がった。
地鳴りがする。周囲のロボットがガタガタとぶつかりあう。
古いマンガを思い出した。
行くことも戻ることもできそうにない。矢追は奇妙な高揚を噛み殺す。
このままこんがりと焼けたら、繋いだ手を離すのに難儀なことだろう。しかしおしゃれな焼死体になるにはまだ早い。
「備府、水族館に行ったこと覚えてる?」
「……お前マイペースにもほどがあるだろ」
備府はほんの少し苦笑いした。ひきつってはいたが、普段とそう変わらないように見えた。
「矢追、これ夢だよな」
重たい前髪が額に張り付き、こめかみには汗が薄く浮いている。辺りが炎で暑いせいなのか、それとも冷や汗なのかは判然としない。
「多分夢じゃないよ」
自分は割合欲望に忠実な夢を見る人間だ。手を握るだけで精一杯な小心者は紛れもなく現実の自分だった。
「備府はガメラ見たことある?」
「やっぱり夢だろ。お前おかしいし。いつも変なやつだけどさ」
備府の頬を強めにつまむ。
「いひぇえ」
矢追の右頬を炎がかすめ、二人は凍り付いた。

いくつか想像できる、と備府は思った。焼死、爆死、出血多量、脳挫傷。
特に楽しいところのない未来予想図だ。
頼みの綱の矢追は話が絶望的にかみ合わない。辺りは火の海になろうとしている。
「備府、水族館で大きな亀見たよね」
「いや、見てない」
あの日は本を届けに水族館に行った。亀どころか水槽すら見ていない。
「見たよ。ガメラみたいなやつ」
「どんだけでかいんだよ」
「そうだなあ……あれくらいかな」
笛を思わせる高い音が耳をつんざく。
一拍おいて火口から水柱が立つ。
痛いほど大きな水滴が辺りに降り注ぐ。
火が次々に消え、大量の水蒸気に辺りは覆い隠される。
靄の向こうで火の鳥が明るく光っている。
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