スポンサーサイト



この広告は30日以上更新がないブログに表示されます。

導火(6)(連載)

袖を引かれた。備府がそっと隣りに立つ。縋るように強く握られて、現状をよそに矢追は少し喜んだ。
散った紅葉は風に煽られ舞い上がり、それからまたひらひらと横たわる場所を探す。
爆発の波は徐々に近くなる。周囲はロボットに遠巻きに囲まれ、不出来な火山は一層赤赤とマグマを吹き上げた。白い壁は照り返しで血の通ったように見える。
もしあの施設がロボットと同じように爆発したとしたらただでは済まないだろう。
ロボットの破片が刺さりでもすれば、自分たちも赤いものをぶちまけるはめになるかもしれない。
「困ったね」
「な、なんでお前、そんな落ち着いてられんだよ」
備府の声は震えている。矢追は右腕を上げた。肘の辺りを掴んだ備府の手が一緒に上がってくる。
「怖い?」
「……なわけねえだろ」
矢追は肘から備府の手を外し、そのまま握りこんだ。
「僕は怖いなあ」
「おい、手、手!」
「どうしようか、これから」
「そんなん知らねえよ!いいから離せ」
「怖いからさ……嫌?」
少し手のひらに力を入れると備府は目を逸らした。
そこに紅葉が降る。
もうこのままどこかへ行ってしまいたかった。

矢追の顔を盗み見る。何を考えているのだろう。
ロボットがどんどん包囲網を狭めて来るので、二人はとうとうロボットの上によじ登った。
因幡の黒兎のようにロボットからロボットに乗り移りながら火山目指して進んで行く。
すっかり夜になり、ロボットはその白さで浮き上がって見えた。
備府、と呼ぶ矢追の声は相変わらず呑気で、備府は少し腹を立てた。
顔を上げると施設の天辺に小さな炎がある。枯れ葉が燃料だろうか。
「おい、あれ」
炎は天高く伸び上がり、轟音とともに辺りを照らすほど大きくなった。
前の記事へ 次の記事へ
カレンダー
<< 2010年12月 >>
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31