「嫌だ」
「どうして?」
「水族館とか……リア充のすくつじゃねえか」
「本を受け取りに行くだけだよ。裏から入ってすぐ帰るし」
「それでもやだ」
「じゃあ僕とデートするつもりで行こうよ」
「じゃあじゃねえよつぶれろ」
「機嫌悪いねえ」
備府と矢追の押し問答を横目に来野はレポートを作成していた。堂仁は貧乏揺すりしながら何か書いている。
「堂仁顔怖い」
「あ?」
目が合うと来野は息を吸い込んだ。
まずい、と思い下を向いて眉間を揉む。
「オ、オレの知ってる堂仁はそんなヤンキーみたいな奴じゃない!もっとこうなんていうか根暗な変態でなおかつ「いい度胸だ」

堂仁は自分自身を扱いかねていた。
『ふ、二人でか?俺サークルには入る気ねえぞ』
警戒心をあらわに備府はたずねる。
『矢追抜きじゃ嫌か』
微妙にねじ曲げた返答をし、にやりと笑うと備府はまんまと食いついた。
『ふざけんなよ!人をガキみたいに言うな』
『サークルは関係ない。次のイベントで売る』
『ま、まじか』
『ああ』
『まじか……』
『まじだ』
『お前俺のこと嫌いなんだろ?意味分からん……なんか企んでねえだろうな』
『無理ならいい』
『……か、考えとく』
混乱しているのだろう。とにかく一人になりたいと顔に書いてある。
『そうか』
『よ、よし!俺はもう行くからな!……あれ?ド、ドアが開かねえ』
『……』
必死に扉を押す備府をのけて堂仁はドアノブを引いた。あっさりと階段が現れる。
『……』
『……』
転げ落ちるように駆けて行く備府を見送り、堂仁は形容しがたい顔をした。

「矢追くんに『何言ってんだこいつ』って目で見られちゃった」
雲英は頬杖をつき、書類をつまらなさそうにめくる。
「そうですか」
「備府くんに穴が開いたら大変だと思ったんだけどねえ」
読み終えた紙束にサインと判をして放る。
「そうですか」
「岡くん私の話聞いてる?」
岡は端末に肘まで突っ込んで何かしている。
「聞いてません」
「ふーん、そういうこと言うの?……そうだ、水族館に二人を行かせることにしたよ」
「まだ早いんじゃないですか」
「やっぱり実地から学ぶことは多いと思うんだ」
「そうですか」
「あ、聞いてないでしょ」
「聞いてます」
「近い内に第五書庫の虫干ししてね」
「聞いてません」

「そうか、そんなに嫌なら仕方ないね」
矢追がため息をつく。
「僕一人で何とかするよ」