Monophobia(雲雀/復活)



「一人は嫌なの」
「へえ、君でもそんな事を思うんだ?」
「一人って、怖いのよ」
「……そう」
「だから雲雀、一緒に死のう?」

彼女はそうして僕の首に手を掛けた。
"一緒に"だなんて言いながら、結局は先に僕が死ぬんじゃないか。笑えない。
心の中で嘲って彼女をもう一度見据える。彼女は闇色のまなざしを僕へ、――否。僕を通してその先へと向けていた。

「雲雀、ごめんね。ごめん、でも、私一人は嫌なの」

本当にこの人は莫迦だ。たった少しの出来事で落ち込んですぐに死にたがる。
その上僕を巻き込んで死のうだなんて冗談じゃない。頭に来たので、首にかけられた手を振り払って、逆に首を絞めてやった。

「く……っ」
「悪いけど僕にはあなたの偽物の孤独なんて解らないや」
「か、ッ」
「不愉快だから死んでよ」

本当に。この儘首を絞めて殺してやろうか。始めは脅しのつもりだったのに、腕に力が篭る。
彼女の口がパクパクと金魚のように動く。「雲雀」。この期に及んで彼女が僕の名を呼んだ。

「何、その嬉しそうな目」

彼女の向ける眼差しは苦しさより感謝に満ちていて、酷く不愉快だった。
僕にそんなに殺されたいのだろうか。本当にこの人は莫迦としか言いようがない。
仕方無く手を離す。彼女は崩れ落ちる。意識を失って、白いシーツの上に倒れ込む。
ああ、――滅茶苦茶面白くない。

「どうして」

気絶した彼女の髪に触れながら問い掛ける。
どうして僕に頼らないんだ。そんなに一人が嫌なら言えばいいのに。「置いて行かないで」と縋りつけば考えてやるのに。
だけどそんな声は眠る彼女に届かない。

「好きだよ」

この言葉も、届かない。
目前にいる僕に手を伸ばさない君には、届けない。



Monophobia



ねえ、早く目を開けて。僕を縛りつけて。
そしたら一緒にいてやらなくもないから。




2008.09.28_