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SWITCH




その日は陽も翳りダラシナイ空気が拡がっていた。
拡張。私のテリトリーが肥大している。そんな日は気分がいい。滅多な事では顔を出さない教室へと足を踏み入れる……彼に逢いたかったから。

(病弱だからってばかにしないでよ)

――がら。
軽くドアを開く。中には一人、教壇のところに彼がいた。何か作業をしているようで声をかけるのが躊躇われる。収縮。みっともない現実に、二本の足が少しだけ震える。

(意気地がないね)

黙って薄く開いたドアの隙間から彼を眺めていた。黒髪が垂れ、銀縁の眼鏡がずり下がっている。

「……何?」
「あ」

気づかれちゃった。彼は私の方へと数冊の本と共に歩んでくる。私はやってきた彼をただ、見上げている。
段段と心のあたりが熱くなる。狂信。言葉も喉の辺りで詰まっている。

「何してんだ、こんな処で」
「……逢いに来たよ、"先生"」
「そっか。入ればいいのに」
「気づいてくれないかな、って思った」
「気づいたけどな。ちゃんと」

ゆったりと口許を曲げて彼は笑う。張り付いたような笑顔じゃない。狡猾な狐の笑み。こんなのを知ってるのは多分、私だけだ。

「なにしてた?」
「ん、採点とか色々」
「邪魔かな」
「いや、殆ど終わってるから大丈夫」
「……うん」

彼が私の手を握る。そのまま閉鎖的な明るくない教室へ導かれる。夕陽すらここまでは辿り着かない。
二人っきり。唯一。
私は照れている。間違いなく顔まで赤い。だけどそれも含めて心地が良かった。繋いだ手越しに、彼の温度まで流れ込んでくる。

「なぁ、」
「なに」
「抱き締めて、いい?」
「……お好きにどうぞ」
「じゃあ」

遠慮なく。
彼が笑って、丸ごと私を抱いた。湯冷ましのような生ぬるい温度が私を包んでいる。恥ずかしさよりも居心地の良さ。黙って私は彼の背中に腕を回した。

「……落ちつく」
「俺も。一番落ち着ける」
「"先生"って呼ばなくていい?」
「いいよ。誰もいないし」
「わかんない。さっき廊下に誰かいたかも」
「でも、教室、鍵閉めといたから」

私が彼の名を口に出すと、彼はますます私を強く抱いた。
悪くない。気分がいい。
保健室の白よりも、私は彼のくれる紺碧の闇が好きだ。暗くて何も視えない方が、私は好きだ。ただ彼の感触を憶えていられるから。

「……好き」

その声に従うように彼は私を抱いて抱いて抱いて、そのまま焼き殺すように胸を焦がし続けて、抱いて。
抱いて抱いて。
融け合えるように抱いて。
繋がって。
蕩けてしまえばいい。全て。

「好き。俺の方がもっと、な」
「同じでいいでしょ」
「ダメ。俺、案外精神年齢低いからさ」
「……でも、私も好きだもん」

早くキスをくれればいい。
もっと欲しい。もっともっと世界が壊れる前に早く。私を壊して下さい、"先生"。
このからだを抱き締めたまま千切ってしまえば。
病を忘れるほどに。

(そうして、私はあなたのものになるの)



2008.08.20//いっそあなたに停めて欲しい、心臓

復活ゆめだいぶ減らしました

五十あったのを三十近くまで減らしました。
多分あまりおもしろくないのが消えたのではないかなと思います。
あと、今花帰葬などの置いてある鯖からエムペへ移動作業中です…しかしこれがハードだ。名前変換とか全部書き換えるのが大変です。
まだ時間かかりそうですが北夢も復活するのでもうちょいお待ち下さいー。
ちみちみ文章も書いていこうと思います。

指先(ラビ/過去ログ)

せっかく8/10過ぎていたので。載せておきます。



或いは、最初っからなんにもなかったのか。

(side:the right)

「痛いよ、ラビ」

諭すような響きがぼーっとしていた俺の頭を貫いた。あ、と思って視線を右へ滑らせば、少し困った顔をした彼女がいた。なんだかヤケにそれが幸せでにたっと頬が弛む。ああ俺って幸せ。そんなことを思っているともっかい彼女が口を開く。

「聞いてる? 指、痛いからさ。ちょっと緩めて?」

ん。指、指ね。うん。緩め――

「――って、悪ィ!」
「あ、いや離さなくてもいいの!」

がばっと慌てて繋いでいた手を離すと、彼女も慌てて声を大きくして言った。それで、もっかい。きゅうっと俺の手を握る。そんだけでもう。なんか、胸が、

一杯になった。

「……あーもう」
「う、え」
「もー、カワイすぎて駄目さ」
「えぇ?」
「どこんでも持ってきたいぐらい」
「そんな。あのね、人形じゃないんだから」

くすくす呆れ顔で笑う。彼女が笑う。俺もつられて軽く吹き出して笑った。

「私だってね、ホントはラビのこと連れて行きたいよ?」
「うん、」
「でもできないから。代わりに、此処に――」
「……心臓?」

握っていた俺の指を離して、彼女が胸に手を当て目を伏せた。ほんのりと幸せそうに顔を赤らめながら、そっと掌を当てている。そして、突然はっとしたように言いかけた言葉を飲み込んだ。

「あ、やっぱり秘密」
「えー? 『此処に』、なんなんさ」
「ええと、いつでも私の心のなかにはラビがいるよってことかな」
「……何か隠してるっしょ」
「隠してないよぉ。あ、ほら時計!」
「えー?」

指差された方向を見れば、もう針は出発の時刻を示していた。

「ほら、早く行かないと」
「ん」
「頑張ってね、私もあと二時間したら出発だから」
「ん、分かってるって。そっちも怪我なんてしないように気をつけるコト!」
「らじゃーですセンパイ。世の中の人を助けるために、私は頑張ってきますっ」

にっこりと笑って、もう一度彼女は俺の指と繋いだ。それがあんまり可愛かったものだから、俺は思わず抱き締めてキスしてやった。照れたように、彼女は目をぱちぱちさせていた。そうして、



(side:the wrong)

それは、誤解。
それは、虚偽。
それは、悪夢。
そうであって欲しいとひたすらに信じていた。

「……っ、嘘だ」

掠れた息で、応援要請のあった現場へと向かう。聞き間違い。誰かのでまかせ。もしくは、俺の夢。絶対にそうだと思っていたのに、一向にそれは解けることなく絡み付いてくる。

不安。

さっき、ついさっきのことだ。任務を片付けたばかりの俺に連絡が入った。近くでエクソシストが数名犠牲になっていると。だから、赴いてそこを手伝えと。

その、数名のなかに、彼女がいた。

必死に俺は彼女が無事でいることを信じようとした。そうでもしなきゃ今すぐに泣き出してしまいそうだったから。でも、それすらも出来ずにただ焦っている。
なんて、みっともないんだろう?こんなの彼女に知られたら、笑われるに決まっている。笑ってくれるに……決まってるよな?

そう俺は思っていた。
なのに、

なのに、
どうして。



「嘘、だろ……?」

辿り着いた先は見渡す限り何もない。砂埃が舞っているだけで、比喩でも形容でもなく、あるはずの建物や人間が存在していなかった。ぼろぼろと崩れた木の欠片やら、灰やらはあったけれど。本来存在しているはずのものが見えなかった。――俺の大好きな彼女も、全てを喰らい尽くしたらしい『敵』すらも。
もう、みんな何処かへと消えていってしまっていた。

『或いは、最初っからなんにもなかったのか?』

一瞬そんなことが頭に過ぎる。あるわけない、と首を振るって俺は捜す。もうこの世に存在していなさそうな彼女を捜す。
暫く歩くうちに、足元に光るものを見つけた。よく見なくてもそれが団服特有のボタンだということが分かる。どうか、あの子のじゃないようにと願いながら抓み上げた。

そっと。
離れていったあの指先を想いながら。



指先



ひっくり返したボタンの裏。
彼女と俺の名が仲良く刻まれて光っていた。




The end-2007.11.18

予告

近々、サイトにある話をゆめとそれ以外で分けようと思います。
それに伴って、古い話はある程度消してしまう予定です。多分、ディグレ連載あたりはばっさりいくかと。復活についても短篇は削る予定です。
急ですが御了承下さいm(__)m



そして私の近況ですが、夏休みなのにバイトばかりでなかなかパソコンに向かえていません…。
あとペルソナが楽しいです。まだボイドクエストクリアしたとこだけど。番長がお茶目クールでイイ(・∀・)!
ジャンルも色々考え直したいところ。北夢復活させるかもしれません。
そんな感じですが、未だにこのサイトを見て下さっている方がいることは本当に嬉しかったです。有難うございます。
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