「なんだよ話って」
昔の夢を見て思い出した俺は、翌日すぐに豊を呼び出した
「話っていうか…昨日会った子の事色々教えてほしいんだよ。名前とか、趣味とか…」
「え…お前あの子の事好きになったのか!?チャラ男のお前が人を好きに!?」
「豊、そんな言い方されたら流石の俺でも傷つくわ〜」
「いやだって、なぁ…まさかあの薙が…」
信じられない、とブツブツ呟きながら俺を見る豊
まぁ確かに俺自身も信じられないけどね
でも…好きになったんだ
あの子の嬉しそうな笑顔に、一目惚れしたんだ
「なぁ、なんで好きになったのか一応理由聞いてもいいか?」
「んー…実はあの子と会ったの、昨日が初めてじゃないんだよねー」
俺はあの出来事を豊に話した
「なるほど…事情はわかった。けどあの子…翡翠君にはもう恋人がいるぞ。前紹介した時俺言っただろ?」
「あー…そうだったっけ?じゃあ略奪?」
「アホか!そんな事したら翡翠君が悲しむだろ!常識的に考えろ!」
「こんな仕事してる俺らが常識的に考えてもなぁ…」
「こんな仕事でも、俺達にだって恋愛する自由はあるさ。だから力で抑えつけたり一方的に気持ちを押し付けても傷つくだけだ。相手も自分もな」
そう話す豊の顔は、普段の姿からは想像もできない程真剣だった
「ま、フラれるのは確定だけど好きになっちゃったなら仕方ないよな。後悔だけはすんなよ!」
「おーい」
しかしすぐに笑顔になり、茶化しつつも応援してくれる豊に俺は少し感謝した
――――…
「後悔だけはすんなよ、か………あ」
豊と別れた後、俺はピタッと止まり重大な事に気付いた
「…あの子の事色々聞くの忘れてた」
せめてどこに住んでるのか知っておかないと後悔もへったくれもない
「しゃーない。もっぺん豊呼び出して聞き……ん?」
声…?あっちの方か?
「…………(ダッ)」
気がつけば、俺は走り出していた
あの時と同じように…
「っ!離せっ!」
「いーじゃんいーじゃん」
目的地に着くと、そこにはあの子…翡翠が男に絡まれていた
「ちょっとだけでいいからさー俺とお茶しようよ。ね?」
「ふざけんな誰がお前なんかと!」
「気が強いなーまぁそんな所も可愛いけど」
男はそう言って翡翠の腕をより強く握り、引き寄せた
「ちょっ…」
「はいストップー」
…しかしそれを俺が見逃すはずがなく、翡翠の肩に手を回し男の方へ引き寄せられるのを防いだ
腕を握ってるだけでもムカムカしてんのにこれ以上触らせてたまるか!…なんて、恋人でもないのに身勝手な事考えてる時点で俺もこいつと同類か…
「あ?なんだおま……!あ、あんた…!」
男はナンパを邪魔した俺の顔を見た途端顔を青ざめすぐに翡翠の手を離した
「俺の事知ってんだ?じゃあもうわかるよな。この子は俺の大事な子なんだ。もし手出ししたら…」
「し、しません!もう二度とそいつには近付きませんから!」
そう言うと男はこちらの返事を待たずに早足で去っていった
あんだけ怯えてりゃもうナンパなんてしてこないだろ
「す、すみませんありがとうござ…あれ、あんた豊さんの…」
「お、覚えててくれてたんだ。しかし危ない所だったなーまぁああ言っとけば今後ナンパされる心配はないと思うから安心しなよ」
「豊さんもそうだけどあんた一体何者なんだよ…」
「んー…内緒。あ、それより手回してごめんなー知らない男に触られて気持ち悪かっただろ?」
「いや、俺を助けるためだったんだから別にいいっスよ。そうだお礼しないと…」
「え、いいよお礼なんて」
「駄目っスよ!助けてくれた人にはちゃんとお礼しないと…あ、あった」
お目当てのものが見つかったらしい、自分のポケットに突っ込みガサゴソと探していた翡翠が取り出したのは…
「…あ、め…――――」
「俺、今こんなもんしか持ってないんスよ。すみません…」
あの時と同じ、可愛らしい包装紙に包まれた飴だった
「…やっぱ男の人は飴なんて食べないからいらないっスよね」
「あーいや、全然平気。むしろ俺飴大好きだから」
「そうなんスか?よかった!」
―トクンッ トクンッ
心臓がうるさいくらい鳴り響く
もしかしたらいけるんじゃないかって…
豊が忠告していたにも関わらず、奪ってしまえばいいんじゃないかって考えてしまった
だってもし、彼の恋人が彼の事を大切にしていなかったら?もし、彼を傷つけていたら?
なんて、都合のいい言い訳ばかり思い浮かんでしまう
「な、なぁ…(ハッ)」
「?」
だけど、それはやっぱり俺の空想に過ぎなかった
彼の左手の薬指に綺麗な指輪がはめられているのが…見えたから
「…結婚、してんだ?相手はどんな奴?」
「え!?あ、結婚、というか婚約というかえっと…////」
質問すると顔を真っ赤にして俯いてしまった
「ち、ちょっと意地悪な時もあるんスけど、いつもは優しくて俺の事大事にしてくれるし、一緒にいるとドキドキが止まらなくて…だから、この指輪をもらった時はすごくすごく嬉しかったんス…////」
ボソボソと、だけどしっかり答えてくれる辺り、彼が相手の事をどれだけ想っているのかがわかった
それと同時に、彼の心に俺が入る隙なんて全くない事も
「も、もういいっスか…?////」
「あぁ、いいよー変な事言ってごめんな?あと…もう一つだけ、お礼してくれない?」
「え、もう俺何も持ってないっスよ?」
「大丈夫、大丈夫。キミはじっとしてるだけでいいからさーじゃあいくぞ?」
―ギュッ
「…!?」
答えも聞かずに俺は彼を…抱きしめた
それと同時に頭の中でカウントダウンを始める
「…………」
3…
「ちょっ…」
2…
「……ごめん。もう少し…もう少し、このままで…」
1…
「…ん!これで思い残す事はなくなったわ、ありがとな。んじゃ、気をつけて帰れよー」
彼の頭を一撫でし、俺は振り返らず立ち去った
「な、なんだったんだ……?(でもあの人に撫でられた時、なんか懐かしかったような気が…)」
「あー…(パクッ)」
彼からもらった飴は
あの日 あの時 食べた飴と同じ
どこにでもある 普通の味なのに
どうしてだろうか
「…しょっぺ……」
少しだけ 涙の味がした…――――
サヨナラ 俺の初恋
――――…
はい薙の失恋話でしたぁぁぁぁ!!!!
後半も結構長くなりましたすみません←
大体の流れは考えていたのにそれを文章にしていくと長い長い
しかも会話文だけじゃなく普通に小説っぽく話を書くのは久々だったのでもう悪戦苦闘でした
多分文としておかしい所はあるかと思いますがそこは生暖かい目で見逃してやってください(殴)