噛まれる度に、吸われる度に、胸に走る甘い衝撃。
それが疼きに変わり、熱になって留まる。
その熱が重なっていき、胸の中で燻りながら膨れ上がる。
それがなんだか、「すき」って言葉とか、「あいしてる」を叫びたくなるような感じに似ている気がして。
『ああっ、』
それらが我慢出来ずに、時々こうして意味もなく叫んでしまう。
『ユノ、もう、』
舐めるだけ。
噛むだけ。
吸うだけ。
はやくそこからどうにかして欲しい。
舐めるなら、
噛むなら、
吸うなら、
もっと下。
もう胸のなかは貴方への「すき」でいっぱいだから、
もっと下にある僕のはしたないそれを解放して欲しい。
だから、手を引いて誘導した。
我慢できないもの。
欲張りで、我慢ができなくなっている。
全部欲しいだなんて、自分でもよく言ったよなって、思ってしまう。
あとで絶対に、みんなから笑われるのだ。
でも、いいの。
だって全部欲しがらないと、きっとなんにも始まらない。
本当に満足できるものをとりあえず願わなければ、
なにひとつ満たして形にはなってくれないだろうから。
いつもなら、そんなに多くは強請らない。
けれど、これは別。
全てを叶えなければ、だめなんだ。
『あ、くぅ、んっ、』
握られる。
撫でられる。
そして、食べられる。
『あんん、』
それがすごくすごく気持ちよくて、胸が浮いて、尾てい骨で立つような不思議な感覚だった。
『あ、あ、あ、』
吸われるときの力が強くて、一瞬で終わってしまいそうになるのを堪える。
解放されたくて導いたのに、結局ここでも堪えている。
『あっ、』
膝の裏に彼の手が入り、足が開かれ、そのまま張り付けにでもされたような姿になる。
寝台の上で足を開かれ、固定される。
これはさすがに恥ずかしい。
彼の肩が動き、一瞬だけ目が合った。
そしてほんの少しだけ唇が上がり笑ったのだった。
胸がぎゅっと鳴った。
背筋に鳥肌がたつような。
それからドキドキしてしまって思わず目を閉じた。
彼の舌を感じる。
感じたら、今度は体が溶けてきてしまった。
お香も媚薬も使ってないのに、勝手に体が潤んでしまう。
嫌いな行為が、彼とのことになるとこんなにも体質すら変わってしまうものなのか。
大人のままで躾をされていた時とも違う。
彼との行為でも、少し前までの体での行為ともまた違う。
酷く、潤む。
『吸いきれない、』
足の間から彼の声がした。
それが何を意味するのか解ってしまうと、身を捩って伏せたくなった。
『アッ、』
自分の膝が弾いたように動いた。
「先」を吸われながら、「中」に指が入ってきたのだ。
そしてそこになにかが滴るものを感じた。
「先」から溢れたものが降りている。
指が「中」で蜜を掻き出す。
「先」からも「中」からも、「すき」が溢れてしまって止まらなかった。
体が、このひとがいいって言っている。
この人でなければダメだと言っている。
触れられることが、嬉しくてたらない。
『きもち、い、いぃ、』
言ったら、変な声だった。
だからだろう、彼が足の間にいて笑ったのがわかったんだ。
『んやっ、ゆの、』
『はは、』
また笑ったな。
こっちはこんなに、
すきで、すきで、すきで、
たまらないのに。
『ひぃっ、』
強く吸われる。
『あぁっ、』
出てしまった。
『んん、ふ、』
彼の口の中で、さっさと果ててしまった。
だって、「中」に入れられながら、「先」を吸われたりなんかしたら。
どうにかなってしまうしか、ないじゃない。
『はあ、』
軽い放心状態だった。
まるで初めて吐き出したあの日のようだ。
ただ呆然としている。
けれど違う。
あの日は好きではない大人達の手によって躾られただけだ。
今日は違う。
久しぶりに感じる愛しい人の指と唇で攻められたのだ。
わけが違う。
すべて違う。
行為そのものの意味が違う。
彼とでなければ、得られないものだもの。
『あっ、ああ、』
放心状態も束の間。
こじ開けられていた足の間に彼が入ってくる。
『う、んんん、んっ』
目の前が暗くなったのは、彼が僕に影を作ったからだ。
明るすぎない室内に、彼の作ってくれた影が差す。
肩と、顔がちらちらと視界に入る。
けれど、大部分は僕の足。
『痛くないか、』
急くようにして入ってきたくせに。
なんて、言えないけれど。
全部を入れたようだ。
入口がどれだけ広がってしまっているのかなんて、考えてはいけはい。
『ううん、へいき、』
苦しいけれど。
いやじゃない。
『いいか、』
『うん、』
動いていいよ。
お腹のなかにいる彼はとても苦しそうだ。
彼も早く吐き出したいに違いない。
彼は寝台に手をついた。
肩の位置が僕に近づく。
ついている膝を僕の頭の方向に向けてずらしたようだ。
そう、踏み込んでくるみたいにね。
そしたらもっと深く入ってきた。
上がったままの僕の足と、近づいてきた肩で視界が一杯になった。
『あっ、は、』
ギッ、と寝台が鳴いた。
ぶつかる太股が激しい。
『いいんっ、あ、』
激しくて、いい。
すごく、いい。
本当に、たまらないって、こういうことをいうんだ。
彼から漏れてくる声が槍を使う時とも、馬で駆けている時とも、また違った息遣いで。
また、ドキドキした。
でもね、ドキドキしている暇なんてなかった。
ぐちゃぐちゃになった僕のそこは、ぶつかる度になんだか恥ずかしくなるような音が出ているし。
彼の大きなものが出入りしているこの存在感に胸が苦しくなる。
満たされてるって思う。
満たされて、苦しいの。
幸せだなって、思ったの。
『すご、い、ああ、いいっ、ああっ!』
本当に凄い。
こんな幸福感は他にない。
膨れ上がる快感。
それに伴い、白い緊張感がせり上がる。
そう、僕の「先」から吐き出しくなる、あの感じ。
『ああ、』
彼の声。
一緒みたい。
僕と一緒。
気持ちよくてたまらないって声だった。
そういう顔もしている。
苦しそうに眉を寄せて。
息も荒くて。
男らしい。
ううん、雄。
『ああっ、』
いく。
僕も、彼も。
『あああ、いく、いくっ、いっちゃう、』
『…ミンッ、』
『いくいくいく、あ、あ、あーー』
僕が放ってしまった瞬間。
彼の咆哮も聞いたような気がしたの。
雄になってしまった、彼。
それから、雌になってしまった僕。
何度何度も前から、後ろから、交わった。
最後の頃にはもう、僕の「先」からは何も出なかった。
「中」で感じて、達していたようだった。
本当に、不思議だね。
どんどん体質が、変わっていっているんだもの。
きっと明日、部屋の世話をしてくれる人に怒られる。
こんなに汚してって、怒られる。
僕達は散々交わったあとに寝具に沈んだ。
彼の体も疲労している。
眠たい。
意識も朦朧としている。
やっと呼吸がおさまって来た頃、彼の頭が僕の胸に乗ったんだ。
唇を落とした。
それから、吸われる。
痛かった。
けれど、声は出なかった。
そして、噛まれた。
皮膚を。
心臓の真上にある皮膚を。
ああ、いつかの、あれだね。
結ぶんだよね。
じゃあ、僕も、しなくちゃ。
重たい体を起こす。
そして今度は僕が彼の胸に乗る。
顔を落とす。
唇で着地する。
舐めた。
吸った。
噛んだ。
紅くなった。
点と点が、線で繋がったような気がした。
紅い糸が見えた気がした。
胸がとても、暖かく感じた。
幸せだなって、また思った。
下を見た。
そしたら彼は、
泣いていた。
柔らかい雨季のように、泣いていた。
続く。
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