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season3 最終回(5)

鼎の行動力は目覚ましいものがあった。新体制になってからは積極的に「いい怪人」が住む地区を訪れたり、現状把握に勤しんでいる。


鼎の警護をする梓は少しだるそうに呟いた。

「あんた本当に変わったよね。平和になったのを機に積極的になってる。
身体の調子はどうなのさ…。無理すんなよ」
「無理はしてない」

「鼎のその言葉…怪しいなぁ。帰るぞ。新体制になってから鼎は働きすぎなんだよ。ブラックって言われるぞ。気持ちはわかるが激務はやめなさい。…休め。新体制になってからまともに休めてないだろ」


梓は梓なりに心配していた。
鼎の身体は火傷のダメージもあり、健康体ではない。


3年前のあの指揮だって、こいつは無理してたと後から北川から聞いた。倒れそうになるまでやるなよな…。
ただでさえ鼎の身体は負荷がかかりやすいってのに。


現在、鼎はようやく手袋を外せるようになった。それまでは火傷の跡が気になり、手袋をなかなか外せなかったのに。
今では彼女の手の火傷の跡はほとんど目立たない。ほとんど消えていた。

だが、季節問わず長袖なのにはまだ抵抗があるのだろう。手は見せられるまでには大丈夫になったが、まだ鼎の心の傷は深い。


仮面に関しては必要不可欠なため、少しちぐはぐになっている。
顔の大火傷の跡はまだ……。目のダメージも気になるところだが、今のところは問題ない。



鼎と梓は本部に戻った。そして梓は御堂に押しつける。


「御堂。鼎を休ませてくれ。
我が強くてなかなか言うこと聞いてくれないから、強引に戻ってきた」
「梓…強引だな」

「新体制になってから鼎は働きすぎてんだよ。しばらく発作は出てないが、鼎は健康体じゃない。
だから無理やりにでも休ませることにしたってわけ。
御堂…宿舎に送ってやってくれない?彼女、大事なんでしょ!?」


御堂は鼎を見る。明らかに疲労の色が見えている。

「お前、無理すんなよって言ったじゃん…。部屋に送ってやるから。発作起こしたら大変だろうが…」
「…和希、迷惑かけてすまない…」

「迷惑じゃないから。鼎は自分をもっと大切にしろよ。自分の心配をしてくれよ…!」



ゼルフェノア本部宿舎。


御堂は鼎を部屋まで送る。
「じゃあな。俺は戻るよ」
「和希…もう少しいてくれないか…。不安なんだ…」

「わかったよ、ちょっとだけな。お前、本当は怖いんじゃないのか…。重圧とか責任とかで」
「重圧は感じている。憐鶴とはプライベートでも連絡しているが、それでも不安で怖くて」


御堂は鼎を後ろから抱きしめる。

「和希…何してるんだ!?」
「お前を安心させてんだよ。落ち着いてきたか?」
「……うん」


「いいから休めよ!お前の身体の負荷は並みの人間よりもかかりやすいことを忘れるな…。
火傷のダメージは未だにあるからな。だから休め。お前に死なれるのは嫌だから…」


御堂はそう言うと部屋から出ていった。


………和希…。



鼎の部屋には人間態の対怪人用ブレード・鷹稜(たかかど)がいた。


「鼎さん、身体…大丈夫じゃないですよね…。寝た方がいいですよ」
「鷹稜はわかっていたのか」

「何年あなたと共にしてるんですか。それくらいわかります」
「心配してくれてありがとう。しばらく寝るから起こさないで欲しい。部屋に誰か来たら鷹稜が出てくれ」
「承知しました」



後日。鼎は大事を取って休むことにする。
御堂は気が気じゃない。


あいつ、梓のいう通り働きすぎたのかな…。
鷹稜から聞いたが、発作をいつ起こしかねない状態だったと聞いた。

頑張りすぎちゃうのかね。
これじゃあ会えないじゃん…。



その翌日、鼎は出勤していた。慎重になる御堂。


「だ…大丈夫なのか?お前」
「病院にも行ってきたから大丈夫。梓のいう通り、働きすぎだった」

「……バカ。だからお前は頑張りすぎなんだよ…!
こっちの身にもなれよ!」

御堂の「バカ」は愛のある言い方。



屋上。


「なんでそんなにも頑張ろうとしてんだよ。無理してまでさ。身体壊すぞ」…と、御堂。

「いい方向に持っていきたいんだ。がむしゃらは私には向いてないようだ。
だから私が無意識に無理してると感じた時は止めて欲しい。遠慮なんかいらないから。
和希なら出来るだろう?」
「当たり前だ」


少しの間。


「『幸せ』ってなんだろうね…。彩音は私に幸せになって欲しいと言ってたが、まだわからないんだ」
「とりあえず現状維持でいいんじゃないの。鼎の幸せがなんたるかがわからないなら」



2人はなんとなく空を見上げた。空は晴れ渡っている。
2人がこれからどうなるかはまた別として。

新体制はなんとか軌道に乗りつつある。これは仲間達のアシストのおかげなわけで。


「和希、あの言葉信じてるから」
「『幸せにしてやる』発言ね。そのうち実現させるから。……いつになるかわからないけどな」

「それでも構わないよ」





―完―


season3 最終回(4)

世間はゼルフェノア最年少の女性司令に注目が集まりつつあった。
紀柳院鼎・32歳と司令にしては若い。しかも彼女はあの「仮面の司令補佐」だった人だからなおさらだ。


「仮面の司令」…か。

恭平は街頭モニターで鼎が司令になったことを知る。

彼女は就任後のある日、報道陣からインタビューを受けていた。明らかに忙しそう。


彼女はインタビューでこんなことを答えていた。

『私は今すぐにでも動きたい。ゼルフェノアを市民に開けた組織にしたい。
そして…人間と怪人――と言っても人間に一切危害を与えない怪人達のことです。と共存できるようにしたいのです。実現は難しいかもしれませんが…』


人間と怪人の共存。この世界で起きてる問題のひとつだ。


鼎はビッグマウスというような言い方ではなかった。

淡々とした話し方で、仮面を着けているがゆえに時折、首を僅かに動かしたりして陰影で表情を見せている。彼女ならではの高等テクニックとも言える。


恭平が見たモニター越しの鼎はどこか表情があるように見えた。真剣そうに話してる。

この人…本気なんだ……。



「御堂さん、ここ出るってホントなの!?」

ある日の御堂が住むシェアハウス。住人の逢坂が驚きを見せていた。
御堂はそっけない反応。


「鼎が司令になったんだよ。あいつ、今寮から宿舎へ引っ越し作業をしていてさ。
宿舎は隊長以上しか入れないから…俺、行こうと思う」
「つまり住むんだね、宿舎に。鼎ちゃん元気?」

「あいつは元気だよ。あのインタビュー見ただろ。
鼎は本気だ。引っ越し作業終了してから新体制の本部は始動させるって」


御堂も宿舎へ引っ越しすることは彼女はまだ知らない。



「はえ〜。ここが司令が住むとかいう宿舎か。
建物は寮よりも小さいんだな。…オートロックに隊員証でようやく入れるシステムか。セキュリティ厳重になってるね〜。
宿舎の見た目は寮よりも立派なのね〜。部屋は寮よか広いって聞いたけど。間取りも寮とは違うんだっけ」


鼎の警護をする梓も宿舎へ引っ越し中。


宿舎は隊長以上しか入居出来ないようになっている。

司令はセキュリティ上、基本的に宿舎に住むシステム。宿舎には合計6人しか入居出来ないが、寮だとざっと10人くらいは入居可能。寮はだいたい2階建てのアパート。
寮は敷地外にあるが、宿舎は敷地内。どちらも徒歩5分圏内なのだが。

これは支部も同じ。

例外なのはゼノク。ゼノクには隊員用の居住区が敷地内にあるため、ほとんどそこに集約されている。


「荷物少ないんだね…」

梓は鼎の引っ越し作業の早さが気になった。もう終わりかけてる…。
荷物が元々少ないんだ…。あたしとは対照的だわ。


宿舎の部屋は寮と比べて間取りが広くなっている。司令が住む場所だから待遇が上がっているのか。

「鼎、部屋隣だからよろしくな〜」
梓は荷物を部屋に入れながらそう言った。彼女の部屋の前には段ボールが積まれてる。


鼎の隣室には梓、そして彼女からしたら思いもよらぬ人も宿舎へとしれっと引っ越していたのだが。

それは御堂だった。


たまたま通路で御堂と鉢合わせした鼎。

「…な、なんで和希がいるんだよ!?シェアハウスは!?」
「…出たんだよ。鼎、宿舎は隊長以上しか入居出来ないのわかっているよな。何驚いてんだよ」

相変わらずそっけない。
御堂は内心、鼎の側にいたかった。まだ恋愛は発展途上で同棲する段階じゃあないが、極力こいつとは長い時間を共にしたい。


「側にいちゃダメか?」
「…別にいいよ。ところで和希の部屋はどこなんだ」


御堂は指差して見せた。

「鼎の部屋の隣だよ。奥の方が俺の部屋。遊びに来たけりゃいつでも来いよ。電話やラインでも構わない。お前…寂しがりだからさ…」


つまり…手前から部屋は梓・鼎・御堂という感じ。
寮は基本的に1人用だが、宿舎は違う。家族やカップルで住むことも可能。

だから間取りが広い。


「私が忙しくなるのはこれからなんだが…」
「わかってる。だからプライベートくらいは…肩の力を抜けって。気が休まらないだろ」

「そうだね」


梓は作業しながら遠くからそれを見ていた。あの2人、少しだけ進展した?
相変わらず不器用同士だからな〜。



引っ越し作業は終わり、一段落。



後日。鼎の司令就任を祝して飲み会が行われた。気の知れた仲間だけの小規模なパーティーだ。

場所は御堂の同級生の柏が経営するカフェバー。以前、御堂達はここで飲み会をしている。


『本日貸切』
お店の扉の前には目立つように大きめの札が。


集まったメンバーは顔馴染みばかり。そこには宇崎と北川の姿もあった。

「室長来たんだ〜。あれ、北川副司令も来てるじゃないっすか」
いちかは反応する。


「鼎のお祝いなんでしょ。だから2人で来たんだよ。
ホント鼎は頑張ってるよ。
…あのインタビュー見て泣きそうになった。鼎、マスコミ大嫌いだったのになんか慣れたよな」

宇崎、まだシラフなのに既に泣きモード。
どうやら鼎の成長が嬉しいらしい。組織に入隊してからずっと彼女を見守っていたからか、まるで親のような気持ちなんだろう。

あの鼎が本当に司令になっちまうんだもん。


「司令という特性上、マスコミ相手に話す機会は増えるからね。
あの時緊張しすぎてガチガチだったんだ。今後のことをなんとか言えて良かったと思っている」


「鼎ーっ!!」
宇崎はまだ飲み会前なのに泣いてるカオス。彼にお酒は入っておりません。

そんなこんなで飲み会が始まった。お祝いということもあり和やかムード。しかも気の知れた仲間しかいないせいか、カジュアル。


鼎は仲間にこう切り出した。

「あの…みんな頼みがあるのだが、聞いてくれないか?」
「なんなんすかー?」
威勢のいいいちかの返事が聞こえた。


「私の呼び方についてなんだが、いつも通りにして欲しいんだ。『紀柳院司令』は場を選んで使って貰えればいい。
私は今まで通りの呼ばれ方に慣れてしまってるから、なんというか…しっくり来ないんだよ。調子が狂ってしまう」

「きりゅさんりょーかいだよ!司令って呼ぶのなんかまだ変な感じがするんすよ〜」
「そのうち慣れますよ」
「きりやんは落ち着いてるね」



飲み会開始から時間が経った。お酒が入った仲間がちらほら。
特にひどいのは彩音と御堂。彩音はお酒が入ると泣き上戸になってしまう。


「鼎が司令になって嬉しいんだよ〜。私達は付き合い長いし、ホントね…今だから言うけど鼎には幸せになって欲しいの。
だから御堂さん、鼎のことを支えてあげて!守ってあげてよ!御堂さんだって付き合い長いじゃん」


御堂はお酒が入るとちょっとめんどくさくなるタイプ。

「ああ!守ってやるし支えてやる。
彩音の思いは受け取った。鼎に幸せになって欲しいんだろ。…俺が幸せにしてやるよ。何を持って幸せかは模索中だけどな」


このやり取りを聞いた鼎は嬉しかった。この2人はお酒が入ると隠された本音が露呈する。

鼎は泣きそうになる。いちかは気づいた。
「きりゅさん…泣いてるの?嬉しいの?悲しいの?」

いちかは鼎が仮面の下ですすり泣いてるのを察した。

「……嬉しいんだよ。和希に『幸せにしてやる』って言われたらさ…」


これ、もう告白じゃん。

きりゅさんとたいちょーは付き合ってるみたいだけど、たいちょーそんなこと思っていたんだね。
きりゅさんを幸せにしたいあやねえとたいちょーは気が合ってる。


晴斗はポカーン。

なんかカオスになってきた…。御堂さんと彩音さん、なんか鼎さんについて思いをぶちまけてるよ…。お酒の力って怖い。
彩音さんは泣いてるし。泣き上戸なのかな。


梓はあまり気に留めてない。

もうさ、幸せになっちゃえよ…。あぁ、御堂と鼎を見てると焦れったいわ不器用すぎるわで…。

お酒が進む梓だった。



新体制ゼルフェノアはいよいよ始動する。
まずは組織の中心を変えることからだった。

新たな司令と共に初のリモート会議。副司令も参加しているため、計6人。


「…というわけで新体制始動になります。よろしくお願いします」
鼎のよそよそしい挨拶から始まった。

鼎は「今すぐにでも動きたい」と言ってた通り、行動力を発揮する。
「私はまず、組織の中心を世間のイメージ通りの本部にすべきだと思います。今現在の組織の中心はゼノクですが、世間のイメージとズレが生じている」

憐鶴(れんかく)も賛同した。
「確かにそうですよね。私は紀柳院司令に賛成します。
今まで組織は長官の本拠地を準拠にしていましたが、その長官は今や空席。つまりゼノクの力は以前よりもなくなっていますから」


若い司令2人に圧され気味の年長者達。

「泉司令の言う通りだ…。私達は長官の型にハメられていたんだ」
そう呟く西澤。支部の小田原司令もこれには賛成。


「ゼノクは縛りがなくなった。ならば中心を本部にしてもいいと思う。…だが紀柳院司令、あなたに負担が倍増しますよ。大丈夫なんですか」

そこにカットインしてきた北川。
「そこは私がカバーしますよ。彼女のサポートは私に任せてはくれませんか。
紀柳院司令の身体についても理解してますし」
「んじゃ北川、サポート頼んだ」

雑な言い方の西澤。憐鶴は思うところがあったらしい。


「あの…私思うんですが…。組織の中心は本部でいいと思うんですよ。
ですが、長官相当の最高司令官がいない状態で緊急時に連携出来ますかね」
「日常的に連携すればいい。普段から連携していれば結束は固くなる」


鼎はそう言った。

これまでの連携は行き当たりばったりな傾向があった。鼎は朝倉から提供された過去の戦闘データを見た上で言っている。



新体制初のリモート会議は結局長引いた。鼎と憐鶴が積極的に意見を言ったのもある。

結果的にゼルフェノアの中心は本部に移行されることになる。
ゼノクは蔦沼の縛りからようやく自由になったわけで。長官引退の影響は大きく、組織の風通しは良くなりつつある。


今日も蒸し暑い

話題:ひとりごと
今日も寝苦しくなるのかなー。あー、だるい。



自己満小説season3最終回、後半が長い現象が起きてる…。
(4)か(5)で終わります。

集大成ゆえに最終回が長い現象。ドラマに例えると2時間ドラマまでは行かないが、日曜劇場最終回拡大SPばりに長いかも。例えがビミョー。
鼎が司令になってからの本部をもうちょい入れときたい。

ある意味season最終回恒例?の飲み会描写は出てくるよ。season2では確か、最終回あたりで仲間達で飲み会やってたし…。
今回はどこでそれをするのか。ここに来て宿舎が出てくることになるとはな。


寮と宿舎はちょっとだけ違います。敷地内か敷地外の違い以外にもある。
セキュリティは宿舎の方が厳重です。基本的に司令が住む場所なので。
司令以外にも数人は住めるようになってるよ。


season3 最終回(3)

―――それから3年の月日が経った。


「司令資格試験受かったの!?おめでとう!!」
そう喜びを見せたのは彩音。彩音のレアな珍しいテンション高めな反応にたじろぐ鼎。

「受かるまでに3年かかったが、これが第1歩だから…」
2人は休憩室にいる。珍しい彩音のリアクションを見ていつもの仲間達もやってきた。
この頃になると晴斗は既に高校卒業し、社会人になっているのだが高校時代の活躍から正式に隊員に認められたため→案の定ゼルフェノア本部に就職。


「超難関の狭き門を突破しただけでもすごいんだよ。今年は鼎しか合格しなかったってどこかで聞いた。それだけ合格率が低いんだよ…すごいよ」
とにかく称え、褒めまくる彩音。親友の合格がめちゃくちゃ嬉しかった。


彼女は司令資格試験を3年がかりで合格にこぎつける。この超難関試験の対象はゼルフェノア隊員だけなのだが、とにかく難しすぎると有名。
その年の合格者はゼロが当たり前のようになっているだけに、合格者が出るなんて稀なわけで。特に指揮能力を問われる実技試験が難関だとは聞いていた。筆記試験の倍、難しいと。

過去に出た司令資格試験の合格者はこの3年間、ゼロ。


この司令資格試験、最短で受かった人でも2年はかかっている。最短は北川元司令だ。


晴斗も喜びを滲ませた。
「鼎さんおめでとう〜!」
晴斗の組織の制服姿はだんだん馴染んでいる様子。御堂は少し照れていた。

「お前、本当に合格しやがった…!」
そんな御堂に突っ込む梓といちか。
「たいちょーデレた!」
「素直に喜べよ〜。快挙なんだぞこれは」


それを温かく見守る桐谷と霧人。

「この組織は大きく変わりますよ」
「あ〜、桐谷さんもそう見てんのか。もしかしたら歴代最年少司令が誕生するかもしれないな。女性司令って…いたっけ」


休憩室は祝福に包まれていた。



本部司令室。鼎はようやく戻ってきた。
いきなり宇崎から祝福の言葉をかけられる。


「おめでとう。お前なら必ずやれると思ってたよ。
これで俺は研究に専念出来る」
「…私はまだ『合格した』だけですよね…。資格はあっても任命されるとは限らないと聞きました」

「憐鶴(れんかく)は確かにそうだね。でもさ、ゼノクはこの3年間でえらい変わったぞ。
二階堂は正式に隊長になったし、憐鶴は司令に任命。西澤室長は副司令になったんだとさ。副司令は司令のサポート役だから、西澤は司令室に残ることを選択したよ。解析班も出来たし」


ゼノクは長官引退以降、全体的に指揮クラスが若返った。
鼎と同年代の憐鶴が司令になっていたなんて。二階堂がいつの間にか隊長になっていたのも初耳。女性の活躍が目覚ましいゼノク。


「室長は今まで司令と研究室長兼任していたが、いつ司令を退くんだ?辞めると散々言ってたのに…3年経ってるぞ」

「お前が司令になる準備をしてから、俺は司令を辞めるよ。こっちは制服の手配とか色々あるだろ?
司令の制服は紺色だ。デザインは詰襟タイプなのは同じだが、これは司令にしか着れない特別な色なんだよ。鼎が合格するまで待ったんだ、準備は俺がする。
……組織を変えたいんだろ?」


鼎はうなずいた。


「…副司令がいないのが気になるが…」
そう呟く鼎。本部は今まで副司令というポジションがなかった。

「俺が司令辞めた後だと鼎だけになっちゃうな…。それは負担がかかりすぎる。
お前にはサポート役が必要だよ。でもそこまで考えてはいなかった。
副司令についてはもう少し考えさせてくれる?指揮クラスのOBを現役に復帰させることは確か、出来たはずだからもしかしたら…北川を副司令に出来るかもしれないんだよ。鼎からしたら頼もしいだろ?」


そんなシステムあったんだ…。

どこかで聞いた話だが、支部の副司令はOBから現役に復帰させた人らしい。
だからなのか、副司令は司令よりも年長者が多い。



ゼノクでも鼎の快挙を喜んでいた。司令室に駆け込む二階堂と上総(かずさ)。


「朗報朗報〜!本部の紀柳院が司令資格試験に合格したぞ!!」
「鼎さんすごいよ!」

腐れ縁の2人はこの3年の間に恋へと進展。
司令室には憐鶴と西澤がいる。


「……知ってたよ。芹那とイチは騒ぎすぎ」
そっけない反応の憐鶴。いつの間にか彼女は隊員に対して名前や愛称で呼ぶ率が高くなっていた。敬語キャラは戦闘時だけに変えた模様。

二階堂も仲間が相手だとラフなタメ口で話すようになる。
これは上総が「芹那は固くなりすぎなんだよ。タメ口で話してもいいのに」…と言ったのがきっかけ。


苗代と赤羽は憐鶴のキャラ変に最初はついていけなかったが、今は慣れた。

なんだ、本当はタメ口で話したかったんだ。
実は憐鶴・苗代・赤羽は同年代。


憐鶴も内心喜んでいる。同年代の女性司令がもうひとり増えるのだから。
本部はほぼ鼎が司令になるのは確定だろうな。…と西澤副司令が言っていた。



鼎の合格から約1ヶ月後。


宇崎は彼女に引き継ぎをしつつ、鼎の司令任命の準備を進めている。鼎の司令任命は近い。
副司令は組織のシステムを運用し、北川を指名した。


班長になったいちかは時々てんてこ舞いになりながらも、班長ライフを満喫している。どうやら班長は楽しい模様。

「平和だからといってのほほんとしてられないよね。訓練しないと感覚が鈍っちゃうよ」



鼎は某日、司令に正式に任命される。任命式は本館講堂で行われた。
宇崎から鼎へ司令が引き継がれる。

彼女は真新しい紺色の詰襟タイプの制服に身を包んでいた。鼎は緊張している様子。


任命式は短時間だった。本部司令になった実感がいまいち湧かない。
だんだん司令になったと実感するのだろうか…。



その日の帰り。彩音と鼎は本部近くの老舗洋菓子店・洋菓子処 彩花堂へ寄った。
この日の本部はいつもよりも早く帰れている。役職者も。


彩音は鼎にお祝いのケーキを買ってあげたくて。
「いらっしゃいませ〜」

風花が笑顔で迎えた。彩音はこんなことを鼎に言った。
「今日は私のおごり。好きなの選んでいいよ。そうだな〜…6個くらいなら好きに選んでよし!今日はお祝いだからね」


彩音がおごるなんて珍しい。親友が司令になったことが相当嬉しいのだろう。


風花は鼎の制服を見た。…あれ?制服の色が変わった?前来た時は白だったのに、今は紺色だ。

風花は思いきって聞いてみる。
「つかぬことをお聞きしますが…今日は鼎さんのお祝いなんですか?制服変わりましたよね」

遠慮がちに答える鼎。
「……風花、司令になったんだ。今日任命式があって…正式に任命されたんだ」
「だから今日は私のおごりでケーキを買おうと思ったの。鼎はここのケーキ好きだからさ」

やけにテンション高い彩音。


バックヤードにいた風花の母親が出てきた。どうやら「お祝い」というワードを聞いて出てきた模様。

「あら、鼎ちゃん司令になったの!?おめでとう」
「お母さん出てこないでよ〜」
「いいじゃない。あ、そうだ。風花、そのチョコチップクッキーおまけで入れてあげて。私達からのお祝いよ。細やかだけど」


おまけして貰っちゃった…。


風花の母親は2人に言う。

「鼎ちゃんと彩音ちゃん、ここの常連さんでしょう。これくらい構わないわよ〜」

風花の母親が親戚のおばちゃんに見えてきた。みんなのお母さんって感じなだけにお客さんに愛されてる。



帰り道。

「今日はとりあえずケーキでお祝いだけどさ、そのうち仲間を集めてパーティーしようよ。
きっと集まるよ〜」


「彩音。パーティーの前にしなければならないことがあるからそれが終わってからでいい?」

……?


「司令になったから寮から本部敷地内の宿舎に引っ越さないとならないんだ。
司令は宿舎に住まないとならないらしい」
「寮と大して距離変わらないのに!?」


season3 最終回(2)

「ここが特務機関ゼルフェノア本部…。でっかい」
ある一般市民の青年はゲートの前にいた。彼は本部に用があるらしく、わざわざやってきた。

この頃には畝黒(うねぐろ)が撃破されてから既に約3ヶ月経っている。
あれだけバタバタしていたゼルフェノアも時間の経過と共に、だんだん落ち着きを取り戻していた。


ゲートが開き、青年は通される。彼は本館正面から入ってくれと指示を受け、言われるがままに正面から入館。来客の場合は内部から3段階のロックが解除される。

青年はおずおずと館内へと入っていく。
ここ、一般市民って滅多に入れないよねー…。自衛隊の基地や駐屯地みたいなもんなのか。なんだかとんでもない場所に来てしまった。それにしてもセキュリティがすごい。



「鼎、お前に会いたい人がいるそうだ。お客様が来ている。市民だ。
彼は既に部屋にいるから行ってくれ」

宇崎はそう彼女に伝えた。


――私に会いたい人?それも市民だと?誰なんだ。



応接室。青年はガチガチに緊張していた。彼は鼎に会いたくてわざわざ訪ねてきた。


やがて応接室の扉が開いた。鼎がしれっと入ってきた。
「客人とはあなたのことですか」
平然としていた。


青年は「菅谷恭平」。一般市民である。鼎が司令補佐になりたての頃だろうか、増設したシェルターの視察に来ていた彼女の近くで怪人出現。
鼎は発作を起こし、シェルター内で彼に介抱された過去がある。それ以降、2回くらい遭遇してはポツポツ会話をしていたのだが…恭平は軽はずみな言葉で彼女を傷つけてしまい、鼎は激しく拒絶した。

『もう今後一切私に関わるな』と言って。


彼は数ヶ月後、晴斗に遭遇。そこで心境が変わった恭平は鼎に何を言われてもいいから謝りたいと思っていた。
あのイーディスこと六道による暴露により、司令補佐「紀柳院鼎」の正体があの事件の生存者「都筑悠真」だと暴かれて以降、彼はずっともやもやしている。

こんな形で知りたくなかった…。そりゃ正体は知りたかったが、こんな形じゃない。



「…俺のこと……覚えていますか」

恭平は恐る恐る声を出す。
鼎はちらっと彼を見たように見えた。

「あの時の一般市民か」


彼女は恭平を覚えていた。

鼎もまた一方的に彼を突き放してしまい、心のどこかにしこりを残したまま。あの時は感情的に言ってしまった。それもひどいことを。


「俺、菅谷恭平はあなたに謝りたくて来ました」
彼はそう言うと椅子から立ち上がる。そして。

「あの時あなたを深く傷つけてしまった…!今でもずっともやもやしています。
イーディスとかいう奴に暴露された時はショックだった。俺はあんな形であなたの正体を知りたくなかったのに…!
だから謝らせてください。あなたを深く傷つけてしまったことを申し訳なく思っています。すいませんでした」


恭平は深々と礼をした。彼は何を言われるか怖くて思わず目を瞑っていた。


沈黙する室内。この沈黙が恭平からしたら気まずかった。


「私もお前を一方的に拒絶してしまい、すまなかった。あの時、私はあまりにも感情的だった…。菅谷に助けられたにもかかわらず、拒絶してしまったんだから」
司令補佐まで謝る必要ないのに。これは彼女からしたらデリケートな話なわけで。


イーディスの暴露の余波がここまで来ていたとは。


一般市民に正体をバラされて以降、鼎は自ら「都筑悠真」だということを素直に受け止め、認めた。
だがあくまでも「紀柳院鼎」として生きたいと言っている。悠真は自分の中にいると言って。

悠真も鼎も自分なんだから。数年前まではあの事件で「悠真は死んだ」と決めつけていた。今は違う。彼女は事件前の「都筑悠真」も、事件以降の「紀柳院鼎」も受け入れた。


恭平はようやく顔を上げた。
「許してくれるんですか…?」
「もう済んだことだろ。恭平、何か変化があったように見えるが」

彼女の洞察力は鋭い。恭平は晴斗との遭遇がきっかけで謝りたいと思ったと話した。
「高校生隊員…晴斗のことだな。暁晴斗だ。
晴斗…そんなことを言っていたのか。あいつらしい」

少し笑ったような声がした。あの高校生隊員と知り合いなのかな。
今の司令補佐は穏やかになっている。笑う余裕が出来てるなんて。

この際だからと彼は鼎に聞いてみた。
「怪人…全然出なくなりましたよね。平和になったんですか」
「約3ヶ月前に終わらせたよ。ゼルフェノアもようやく落ち着いてきた。この組織が暇なことは平和を意味している。だから一般市民の恭平を客人として入れたのだろう」
「緊張しました。こんなにもセキュリティが厳重だなんて…。それにグラウンドの隅に慰霊碑…ありますよね。見ました」


本部のグラウンドの隅には殉職した隊員のための慰霊碑がある。碑の周りには花壇が。
鼎と宇崎はたまに慰霊碑を訪れている。

「今回の戦闘で隊員に犠牲者が出たんだ。慰霊碑に花を手向けている。
市民に犠牲者が出なかったのは幸いだった」
「…常に死と隣り合わせなんですね。やっぱり怪人と戦うことは過酷なんだ…」

「……それでも前に進むしかないんだよ、私達は」



恭平は帰り道、ゲートを出た後ふと振り返った。今、平和なのは彼らがいるからなんだ…。
怪人はいつ襲来するかわからないのが不気味だが。



「ふ〜ん。その一般市民と和解したんだ。良かったな〜。しかし…イーディスの暴露の余波、えげつないな…。未だにあるなんて」
宇崎は司令室に戻ってきた鼎にフランクに話しかけた。


鼎は自分の席に座る。
「逆に正体が知れたことで、両親の墓参りには行きやすくなりましたよ。今までこそこそ行ってたので」

「お前の両親は娘だけでも生かしたくて犠牲になったのかもしれないな。
お前だけ生存したってさ、あの状況的には絶対にあり得ないと警察から聞いたことがある」


今になって真事実か?


宇崎はつらつら話す。

「怪人絡みの捜査をしてる西園寺と束原がいつぞやに話してくれたんだよ。やっぱりあの怪人絡みの放火事件は不自然だって。
あれだけの火力があるなら全員死んでもおかしくないんだと。火元が怪人だから、お前が全身火傷を負ってでも生きてんのは奇跡なわけ。これが最近出た真事実だ。警察も本人に話して欲しいと言ってたから」


鼎はかなり複雑だが、真事実を知り憑き物が取れたような感じになる。

「…室長、知れて良かった……」
声が小さくなる鼎。
「あれ?ちょっと泣いてる?大丈夫?」
「…なんとか」


この事件は謎が残るため、西園寺達は捜査を続けるそうだ。犯人の怪人は既に撃破されてはいるんだが。
怪人絡みの捜査をする警察は、過去の事件を改めて捜査することもある。

悠真改め、鼎の生存も謎のひとつ。



ゼノクではゼルフェノア全体にあることを知らせる。
それは「蔦沼長官引退」だった。


本部や支部・ゼノクでは知ってた人間もある程度はいたため、反応は薄い。


「あ〜、やっぱり長官引退か。引き継ぎあるからまだ組織は去らないでしょ。
あの人そういう人だし。しばらくはOBとしていそう」
宇崎は相変わらず軽い言い方。

「長官のポジションは空席になるんだな。次の長官は決まってないと聞いたが」
鼎は淡々としてる。

「こうしてる間に体制が変わるかもしれないからそのまま空席にするってよ。
ゼルフェノアは転換期だ。少しずつ変わってきている。転換期は2回目だけどね」


ゼルフェノアの転換期は過去にも1度来ている。
1回目は黎明期・ファーストチームから特務機関ゼルフェノアへ名称が変わった前後。

そして今回。2回目の転換期は数年がかりで大きく変わると見込んでいる者もいた。1回目の転換期も2、3年かかっている。



ゼノクでは新たな部署・解析班が始動。


メンバーは三ノ宮と粂(くめ)。粂はあの戦いにより心の傷が深く戦えなくなったため、気の知れた三ノ宮のサポートを受けながらデスクワークをしている。

まだPCは不慣れらしく、三ノ宮に教わっている状態。


今まで戦闘主体の隊員だった粂は現在解析班で奮闘中。彼女は少しずつ元気を取り戻している。



ある日、鼎は久しぶりに本部近くにある老舗洋菓子店「洋菓子処 彩花堂」に行った。仕事終わりに。だから制服にコート姿のまま。


お店の看板娘・風花が笑顔で迎える。
「いらっしゃいませ〜!
…あ、ああああ久しぶりですね鼎さん!なんかめちゃくちゃ久しぶりですよ。忙しかったんですか?」

「ようやく落ち着いたんだ。平和になったからね。
風花、シュークリーム2つとプリン2つ貰えるかな」
「シュークリームとプリンですね!」
嬉しそうな風花。


鼎は久しぶりにここのお菓子を買った。バックヤードから風花の母親がちらっとこの様子を見ていた。

鼎ちゃん、久しぶりに来たのね。風花、はりきりすぎよ。この子ったら…。


鼎はこの店の常連客だが、しばらくの間来れなかった。



鼎が会計をし、退店した後。お店は閉店準備中。
風花の母親は鼎のことを親しげに「鼎ちゃん」と呼ぶため、まるで親戚のおばちゃんのよう。
風花と母親は店の接客担当。母親は時々カウンターに出ているような感じだ。


「お母さん、鼎さんなんか変わったように見えたよ。気のせいかな?
なんだか穏やかになったよね。顔は仮面で見えないけど、わかるんだ」
「平和になったからじゃないかしら。しばらく来れなかったじゃない。
鼎ちゃんの声を久しぶりに聞けて安心したわよ。鼎ちゃん…優しい子だからね。人を見た目だけで判断してはいけないよ」

「お母さん、わかってるってば。鼎さんの仮面の理由知った時…ちょっとショックだったの。今は立ち直ったけどね」
風花の本音がポロリ。

「鼎ちゃんみたいな人、他のお客さんでもたま〜に来てるじゃないの。気にしない、気にしない」


鼎さんは季節関係なく長袖・手袋なのもそういうことだったんだ。ようやく理解したけど夏、倒れないのかな…。
あのコートが司令用だと聞いたのはかなり後。彼女は「司令補佐」だから着てるらしい。


風花の母親は冗談混じりに言った。

「そのうち鼎ちゃん、司令になるんじゃないかしら」
「またまた〜。お母さん、何言ってんのさ〜」


2人は談笑しながら閉店作業を和気あいあいと進めていた。バックヤードでは風花の父親と兄が片付け中。ちなみにこの2人はパティシエ。
このお店は家族経営なため、だいたい閉店作業中はこんなしょーもない内容の会話が多い。

今日は鼎が久しぶりに来店したせいか、鼎の話題に持ちきりになっていた。


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